※M-1グランプリ2019

【自己満足記事 M-12019講評】(約7500字)
※過去記事

脱稿 2020年1月18日
公開 2022年9月30日

 

 

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※過去記事は、そのときの私の感想を残しておくために、あえて原文のまま(誤植があれば直しますが)掲載します。そのため、今となっては不自然な表現や記述がある可能性もございます。例えば「最近の~」や「数年前の~」といった表現が出てきた場合、それは現在ではなく、記事を書いた時点での“最近”や“数年前”を指しています。
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今年もこの時期がやって参りました。とりあえず書いた。読みやすさ重視で書いた。想定より1週間多くかかった。それも悪くないだろう。

 

 

本戦の評論に入る前に、まずは敗者復活にいたコンビ5組について思うところがあるので少し書く。

 

天竺鼠
もともとはネタをしっかりと作っているというイメージがあったのだが、近年は内容が全く無く、ツカミだけで誤魔化している。マイクスタンドを持ってきたり、靴で場所取りをするなどツカミで笑いをとるのは結構だが、肝心の中身の部分がつまらなくなっては意味が無い。

 

・ミキ
今回の敗者復活組の中では一番面白かったと私は感じた。まだ芸歴8年で、和牛やかまいたちと同じレベルを求められるのは大変だろう。第7世代の筆頭だったが、そのポジションもいつの間にか霜降り明星に奪われてしまった。

 

東京ホテイソン
私は彼らを最初に見たときから注目していた。もっと面白くなると思っていたのだが、どうやら伸び悩んでいる印象を受ける。ネタの構造上、急に突飛なボケを発し、それに対する備中神楽ツッコミが決まるときと決まらないときとの差が大きくなり、やや安定感に欠けるか。

 

アインシュタイン
ほんの4、5年前は顔をいじることしかしておらず、レベルの低い漫才をしていたが、ここ2年ぐらいでしっかりした構成のネタが増え、本当に成長した。世間がもう少し稲田の顔に慣れれば決勝進出もあり得る。

 

・トム・ブラウン
面白い面白くないとかじゃなくて何が面白いかが分からない。彼らに関しては「貧乏なロン毛と怪力坊主による北海道の高校の柔道部の先輩後輩コンビ」という以外は本当に評論できないのでトム・ブラウンの面白さを解説してくれる人がいたら是非私に連絡してほしい(マジで)。

 

 

 

 


(今大会についての小話①)
採点のテンポが悪い。恐らくほとんどの人が気になったとは思う。今年の採点の開票は

all kyojin! 87点! nobuyuki hanawa! 91点! shiraku tatekawa! 90点!……

みたいな感じで、テンポが悪すぎる。去年までは

89! 92! 91! 88! 91! 90! 92! 合計得点は!

というように非常に良いテンポだったのだが。なぜゆっくりにしたのだろうか。というかそこを変えてどうしたかったのだろうか……。
あと礼二の場所が変わった。巨人と塙の間から富澤と松本の間に移動していた。なんでだろう~。

 

 

(今大会についての小話②)
今大会は決勝初進出が9組中7組と多かった。そして新顔も多いため始まる前は不安視されていたし、私もそうだった。しかし、今年のコンビで私が全く知らなかったのは2組(ミルクボーイ・オズワルド)で、去年も私が知らなかったのは2組(ギャロップ・トムブラウン)だったので、私が初見のコンビの数は別に去年と変わらなかった。

 

 

 

では始めます。

 

 

 

 


ニューヨーク「ラブソング」 83
定期的に炎上することで有名なニューヨークである。私は彼らのネタはどちらかといえば好きな方だが、それはネタの中に彼らなりの毒や皮肉や偏見の部分があるから。少なくとも私の中ではニューヨークに歌ネタのイメージは無く、なぜ歌ったのか、そしてなぜこのネタを選んだのかという疑問が沸き上がる。歌ネタとなると必然的に笑いの数(というか笑いが起こる場所)は少なくなり、ポイントごとに絶対に笑いを取っていく必要が生じるので歌ネタ漫才で勝つのは難しい。また、M-1では正統派のしゃべくり漫才が評価される傾向があるため、数多くの持ちネタの中からなぜこれを選んだのか理解に苦しむ。れいせい~に考えたらこれでは勝てないと事前に想像できたと思うのだが。歌自体の完成度が低いうえに、ラブソングという歌のタイトルに捻りが無いため、このような評価となった。

 

かまいたちUSJUFJ」 92
私が見たことあるネタであり、何度も披露しているであろうネタ。確か去年(1月のやつか5月のやつかは忘れた)のドリーム東西ネタ合戦でやってたと思う。このネタは屁理屈憑依山内の極致ともいえるものだが、いかんせん屁理屈すぎる。去年のポイントカードネタなどと比べると理屈に無理がありすぎる。無理のある理屈で山内が濱家を追い詰めるのが面白いと言う人もいるが、私の場合は、無理な理屈だとネタに感情を揺すぶられないので、「一見無理がある理屈だが聞いていると正論に思えてくる」パターンのネタの方が好み。「晒せよ」を「サランヘヨ」と言う、「もし俺が謝ってこられてきてたとしたら絶対に認められてたと思うか」という訳の分からない言葉、などの小ネタ的なものを途中で挟んでくるのがかまいたちの技術の高さである。

 

和牛「引っ越しの部屋選び」 92
いや敗者復活と一緒かい。敗者復活戦と同じネタをしてはいけないという決まりは無く、審査員は敗者復活戦を恐らく見ていないため、同じネタでも別に問題はない。実際、敗者復活の場では前後左右に動くと聞き取りづらいことがあったが、決勝のステージではそんなことはなく無事に聞き取れた。そこはいいね!だったのだが、個人的には和牛の最大の武器である水田の屁理屈キャラが入った別のネタが観たかった。しかし和牛はM-1の決勝ですでに7本のネタを披露しているため、もう勝負ネタの数は無くなってきているのかもしれない。「お邪魔しました~」が水田のみが言う場合、両方が言う場合、川西が水田に向かって言う場合の3パターンあること、川西がツッコまないという新たなスタイルを作ってきたこと、などの見所はあるが、このネタでは過去の自分たちを越えられなかった。そもそも和牛だけ戦っている相手が違うため、優勝へのハードルは人一倍高いのが現状である。2017年で優勝していればどんなに良かったことか。

 

 

~ちょっと一息① 2017年の審査~
M-12017の最終決戦はとろサーモン、ミキ、和牛の3組によって争われた。和牛が最終決戦で披露した旅館のネタは1本目のウェディングプランナーのネタに負けないぐらいの完成度を誇り、「届けこの思い」というワードも光っていて、最後の「じゃらんで働いてます」はこの年で一番綺麗なオチだった。和牛の優勝は確実だと思ったが、結果はとろサーモンが4票を集めて優勝した。なぜとろサーモンなのか。とろサーモンの2本目は1本目と比べるとクオリティは落ちていて、何度も観たことがあるネタだった。大吉先生はとろサーモンはツカミが早かったと言っていたが、それだけで和牛ととろサーモンの差が埋まるとは思えない。あそこでとろサーモンに入れた審査員は追放すべきと今となっては思うのだが、礼二以外は追放されていた。

 

 

すゑひろがりず「合コン」 89
かつては「みなみのしま」というコンビ名で活動しており、アメトーークのパクりたい1GPにも出演経験がある。漫才からコントに入る例はあるが、最初から平安風なのは初めてである。結論から言うと、そりゃ笑う。最初の「では店員を呼んできます」「じゃあお前は誰だ」というやりとりも現代語なら何度も見たことがあるようなくだりだが、これを古語でやると一気に面白くなる。ある意味反則に近い行為である。面白いことに間違いはないのだが、勝てるスタイルの漫才ではないので、M-1という豪華なる金色堂の舞台では戦いづらい。

 

からし蓮根「教習所」 90
個人的には今大会の「霜降り明星」枠だと勝手に思っていた。去年からの上積みも感じ、非常に成長している。ただ、去年の霜降り明星のような圧倒的な爆発力は無く、ネタの前半はやや静かだった。にちようチャップリンで観たものはもっと面白かったため、これが彼らのベストではないと思うが、今後に期待が持てる結果となった。一つ付け加えるとしたら、もう少し方言を推して個性を出すのも良いかもしれない。

 

 

~ちょっと一息② どうした上沼~
からし蓮根へのコメント中、上沼が急にキレた。一度止まった後も再度怒鳴り散らした。奴の意見をまとめるとこうだ。

(ⅰ)和牛には横柄さや大御所のような振る舞いを感じた。
(ⅱ)過去2年票を入れているのに決勝に残らなかったのが腹立つ。

まず(ⅰ)についてだが、和牛が真摯に漫才に向き合っていることはファンなら知っていることだろうし、横柄さや大御所のような振る舞いというのも見る限り私には感じ取れなかった。もしそう感じたのならそれは「場慣れ」ではないか。緊張を表に出さないという和牛なりの心遣いではないか。
次に(ⅱ)についてだが、トム・ブラウンや、(今年のネタの)ニューヨークを決勝に通し、過去にはサンドウィッチマンやオードリーを落としている準決勝の審査なので、あまり当てにならないのは確かであり、「自分が票を入れている」と「決勝に残らなかった」を結びつけるのはどうかと思う。
何より私が一番言いたいのは、もしこれが的確な発言だとしても、からし蓮根を褒めるためにここで和牛の名前を出して批判するというのは筋違いだということだ。

 

 

見取り図「お互いを褒め合う」 90
お互いを褒め合うはずが、だんだんとけなし合うようになり、絶妙なあだ名を言い合うネタ。2人の見た目を活かした漫才である。途中で変な人名を出して後に〇〇って誰~?といって回収するのがお決まりのパターンのよう。しかし、去年の私のM-1記事でも書いたことだが、ワードの回収までが長すぎたり、回収するにしてもその言葉を強調していなかったりだと、たとえうまく回収されても一瞬「ん?」となる間が出来てしまいテンポの悪い漫才になってしまう。そして今回出てきた「ダンサーの綱吉」というワード。これがどこで出てきたかをはっきりと答えられる人は居ないだろう。正解はEXILEの41軍と生徒に手を出すタイプの数学教師の間。誰もピンと来ないと思われる。去年のマルコ牧師ぐらい強調してくれないとこちらには伝わらない。彼らはそこの見取り図が描けてない。「群馬あたりの伝説のホスト」「あおり運転の申し子」「激弱のバチェラー」など、字面で笑える漫才だったが、やはり一番笑えるあだ名は盛山がアメトーークで話していた「巨漢長髪髭男」と「堺の豚」だろう。見た目といえば、盛山はロッチ中岡にもラッパーのR-指定にも似ている。

 

ミルクボーイ「コーンフレーク」 93
思わぬ伏兵がいた。コーンフレークだコーンフレークじゃないの掛け合いを基にした、言ってしまえば壮大なあるあるネタなのだが、その行ったり来たりだけであれほどの笑いを生んだ。何といっても題材選びが良かった。誰かが傷つくわけでもない絶妙のところのネタ選びだった。しかし、群を抜いて面白いかというとそうではない。やはりテレビとスタジオでは場の空気感が違うようだ。

 

オズワルド「先輩を立てる」 91
ミルクボーイの余韻が会場に残るなか、うまくオズワルドの空気を作り出し、自分たちのスタイルをやりきったのは評価できる。最初は穏やかな漫才でスタートしたが、二人の会話の中の小さなズレがどんどん積み重なって、後半にしっかり爆発し笑いに変えた。ネタの中の強弱のつけ方が非常に上手く、これからの伸びしろに期待したい。

 

インディアンス「おっさん女子」 88
劣化版アンタッチャブル。彼らを表すのにこれほど的確な言葉は無いだろう。今はお互いの波長が合っておらず、基本的に何言ってるか分からない状態で突き進む感じなので、ある程度の笑いはとれても大爆笑をとるのは今のままでは難しい。ボケツッコミ共に改善の余地はあり、ボケはボケで精度を上げ、ツッコミはツッコミでボケをもっと拾っていかないといけない。今のインディアンスでは決勝に来ても結果は出せないと私は何となく思っていた。

 

ぺこぱ「タクシー」 91
昨年のおもしろ荘優勝コンビ。ツッコまずに全て受け入れるという漫才だが、彼らにとって幸いしたのは順番が良かったことである。様々なスタイルの漫才を見た後で最後にこれが来たことが高得点に繋がったと考えられる。一つ気になったのはボケの個性が強いこと。ボケとツッコミのどちらもキャラが強いとくどい印象を与えるため、フォもしろさがフォおきく減ってしまう気がする。……時を戻そう。面白さが大きく減ってしまう気がする。ぺこぱの漫才は🍆のツッコミが持ち味だと思うので、ボケはそれを引き立てる感じにするとバランスが良くなる。

 

 

 

 


【審査員採点分析】
新コーナーの審査員採点分析。箱ひげ図とか標準偏差を出すとか分析方法は色々あるが、それはネット上の他人に任せるとして、私は軽い分析をするに留めたい。スペースの都合上、コンビ名と審査員名は簡略化した。一応私の採点も書いている。


     巨   塙   志   富   礼   松   上    私
ニューヨーク   87  91  90  88  88  82  90 616 83
鎌鼬    93  95  95  93  94  95  95 660 92
和牛    92  96  96  91  93  92  92 652 92
末広がり  92  91  92  90  91  89  92 637 89
辛子蓮根  93  90  89  90  93  90  94 639 90
見取り図  94  92  94  91  93  91  94 649 90
ミルクボーイ 97  99  97  97  96  97  98 681 93
オズワルド 91  89  89  91  94  90  94 638 91
インディアンス  92  89  87  90  92  88  94 632 88
ぺこぱ   93  94  91  94  92  94  96 654 91

最高点   97  99  97  97  96  97  98      93
最低点   87  89  87  88  88  82  90      83


塙と志らくは採点が似ている。さらに2人とも関東の人間なのに東京スタイルのオズワルドを低評価にしているのが興味深い。志らくは昨年は審査基準が意味不明だったが、今年は発言も採点も納得できるものになっている。上沼はからし蓮根以降はすべて94点以上をつけていて、さらに94点が4組いる。私には採点を放棄したとしか思えないのだが上沼なりの採点基準があると信じたい。私の採点とちょうど被るような審査員はいないが、若干富澤や松本に近いか。

 

 

 

 


ぺこぱ「電車の席を譲る」 91
すべて受け入れるツッコミの漫才は他にも何度か観たことがあるが、この水準まで仕上げたのはぺこぱが初である。個人的にツッコミはビシッと決めてほしいという思いがあり、私もそういうツッコミでありたいと思っているが、それでも私に91点をつけさせたぺこぱの力量は賞賛に値する(上から言うな)。こういう漫才も、悪くないだろう(だから上から言うな)。

 

かまいたち「自慢」 94
これも屁理屈憑依山内。2本目の方が掛け合いが良かった気がする。途中で客に呼びかけたのは恐らくM-1史上初である。とするとオチは2パターンあるのだろうか。手が挙がらなかった場合のオチも気になる。後出しじゃんけんで負けたり、息継ぎのタイミングが変だったりとここでも小ネタ的なボケを挟んでくる技術があり、何よりコントも高い水準にあるのにそれに頼らず毎年しっかりとしゃべくり漫才を作ってくるのは素直に凄い。

 

ミルクボーイ「最中」 93
1本目とパターンは同じだが、敢えて違いを出すとすれば、1本目は「寿命に余裕があるから食べてられる」「朝から楽して腹を満たしたいという煩悩の塊」「生産者の顔が浮かばない」などコーンフレークへの偏見に満ちたネタだが、2本目はお菓子の家の施工の話や最中の家系図の話など最中への想像の話が多くを占めている。そして、「〇〇だ」「〇〇じゃない」のやりとりの回数も10回から13回に増えている。余談だが、駒場がなんとなく山井(中日)に似ていて、内海がなんとなく山川(西武)に似ている。それだけ。

 

〈参考資料〉
          │
     ┌─────────┐
     │         │
最中母=最中父  ──  不倫相手 │
   │     │   最中父の弟=
   │   ┌──┐       │
   ┌──┐八ッ橋 おたべ    もみじ饅頭
 最中 最中=アイス
      │
     モナ王
           │
       ???=
          │
         ???=
            │
           ???=
              │
              マカロン

 

 

 

 


いよいよ最終審査。私が投票するならかまいたちだったが、会場のウケ具合を考えるとまあミルクボーイになるだろうなとは感じた。


【最終審査結果】
巨人塙志らく富澤礼二松本上沼
 ミ ミ ミ ミ ミ か ミ
 ル ル ル ル ル ま ル
 ク ク ク ク ク い ク
 ボ ボ ボ ボ ボ た ボ
 丨 丨 丨 丨 丨 ち 丨
 イ イ イ イ イ   イ


【優勝:ミルクボーイ】


あぁ~!今トロフィーを頂きました~!!
という何とも綺麗な終わり方で今年のM-1は終了した。

 

 

 

~ちょっと一息③ 過去最高の戦い~
大会終了後、今大会は過去最高レベルの戦いだったという意見をちらほら目にした。断じて言うが、最高レベルではない。私が95点以上をつけたネタが無かったので過去最高とは言えない。ただ、ネタの幅は広かった。多様なスタイルのネタがそれぞれ面白かった(ニューヨークは前説だったが)のでそう感じるのだろう。
ちなみに、過去最高の戦いは決められないが、過去最高の最終決戦なら2016のスーマラ・和牛・銀シャリの戦いだと個人的に思っている。私は3組とも95点をつけたし、3組のネタ終了後、審査員が全員うなだれていたのが印象的だった。

 

 

 

 


(最後に)
昨年はジャルジャルスーパーマラドーナ、今年はかまいたちが卒業し(和牛も恐らくもう出場しないのでは?)、復活後のM-1を支えてきたコンビが卒業していく。一体どんな新世代が台頭し、どんな結成10数年の中堅が世に出てくるのか。M-1はこれから新たな局面に入るのだろう。

では次は3月末のR-1記事でお会いしましょう。


               おしまい。

 

 

 

 


~今だから言えること~
ミルクボーイの優勝は単に面白かっただけではなく、「誰でもどんなジャンルでもネタを作ることができる枠組みの発明」という要素が大きいと個人的には思っている。

 

 

 

 

 

 

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